自分で手を動かしたことの積み重ねでしか仕事はよくならない
先般話題になったこの記事。
NHK解説委員の三輪誠さんが、自分で手を動かして作ってきた仕組みの数々。人海戦術で情報を収集し、編集してきた”すごく無駄が多い”報道の現場を、さまざまなツールを作って改善してきた経緯が書かれています。とてもいい記事でした。
少し長いのですが引用します。
ほんとうに「その程度のこと」なんです。AIとかじゃないし、大々的に発表できるものでもなく、初歩的で地味なコードをこつこつ書いただけのものばかりです。
でもそれで仕事の環境が劇的に改善したという経験を私はいくつもしてきました。そうした地味なツール開発の積み重ねが新しいサービスの創造や、職場の「DX」といわれるものにつながるんじゃないかと思います。
(略)
自分がやりたいことは、まずは自分で手を動かしてみるというのは、IT化でなくても当然のことではないかと思うのです。
(略)
必要なことは、今の仕事の環境に疑問を持って、変えるために積極的に新しいことを学ぶ好奇心と向上心、トライ&エラーをおそれない積極性だと思います。
もうコレ間違いなく膝パーカッション((c)アルテイシアさん)連打で膝の皿壊れるんじゃないかという文章でした。こういう地道な「その程度のこと」の積み重ね、あるいは「自分で手を動かしたこと」の積み重ねが、仕事をよくしていくんですよね。誰かから与えられるのを待つのではダメなんじゃよ…と、同意しかありません。
(ちなみに、追記にある「属人性」のくだりについても、激しく同意しすぎてヘドバン状態でございました)
で、この記事を読んだ近藤祐子さんが、こんなブログを書いていらっしゃいました。
これもいいなぁと思ったんですね~。
これまで仕事でプログラミングやシステムについて学んではきたけれど、今まで仕事の困りごとをプログラムなどでなんとかしようという発想がなかった。けど三輪さんの記事を見て自分でも何かを作ってみようと思った…というお話でした(すみませんむっちゃ簡単にまとめちゃって)。
これまでいろいろな楽しいアウトプットを出し続けている近藤さんのことなので、きっと素晴らしい何かを作ってくれるんだろうなと期待してしまいます。
いろいろなツールを作り続けて20年
で、翻って自分の話。
私はこれまで雑誌、ウェブ、イベントと、多方面にわたるメディア関連の仕事に携わってきました。どのメディアも、少ない人数で運営していて、システムの力を借りなければ運営することはできなかったと思います。
それで私も、たいしたものではないけれど、これまでたくさんツールや仕組みを作ってきました。自分でプログラムを書いたものも、書いていないものもあります。(はやり言葉で言えばノーコード?)。使える技はシェルスクリプトのみなので、あとはWord、Excel、Goole Driveなど、誰でも使えるツールばかりを使っています。
言ってみれば「低レベル」のデジタル化です。派手さには欠けます。映えません。
たとえば、過去には以下のようなものを作りました
- 大規模イベントのスポンサー管理ツール(申し込み~管理~請求書発行フロー)(Google SpreadSheet)
- 大規模イベントの展示内容説明用紙の自動作成ツール(WordとExcelとGoogle Spreadsheet)
- 大企業向けイーラーニングシステム(LMSと自作のメール発行スクリプト)
地味…。
大規模イベントの仕事は、来場者数1万人超、スポンサー数十社という規模の展示イベントで、運営チームはごく少人数。
私がスポンサーさんの担当をしていた時期は、イベントが急成長していて、スポンサーも急増。一枚一枚請求書を作成しているとそれだけで数時間かかってしまうがそんな時間はないよ!というのをWordの差し込み印刷を駆使して何とか乗り切りました。そのほかお礼メールをGoogle SpreadSheetのスクリプトで送信したりと、見様見真似でGoogle App Scriptを触って作業をしておりました。
このイベントの業務で得た数千人規模の人と情報のやり取りをした経験は、その後イーラーニングの仕組みを運用していたときにも活きました。
このイーラーニングシステムは、既存のLMSとメール発行スクリプトなどを組み合わせてたもので1,000人規模の受講者と数年間やり取りが続きました。
想像以上に便利だったkintoneベースの雑誌検索システム
今は以下のような仕組みが稼働しています(今ぱっと思いつくのはこれぐらいですが、後で追記するかもしれません)
- Dropboxの所定のフォルダにデザイナーさんがゲラを保存すると、slackに通知が届き担当編集者が気づける仕組み(DropboxとIFTTTとslack)
- ウエブをクローリングして必要な情報を収集、加工する仕組み(シェルスクリプト)
- 雑誌の目次検索システム(kintone)
これも地味ですね…。でも便利なんですよ。
たとえば、「目次検索システム」。雑誌の仕事をしていると、これまで「イオンの記事書いたのいつだっけ?」「糖尿病について書いた記事、何年何月号だったかな…?」と過去記事をさかのぼることがよくあり、それまではなんとなく時期のあたりをつけて、紙の雑誌をめくって手作業で探していたんですね。
そこで過去うん年の雑誌のPDFと目次情報をkintoneに登録しまして、キーワードで検索すると、当該の記事が表示される仕組みを作りました。
自分で言うのもなんですが、これが便利で。作る前に想像していたより何倍も仕事が楽になりました。kintoneはPDFの内容まで検索してくれるから細かい内容まで入力しなくても済むのが運用上もよかったです。
「何かを作った」というより、「自分の仕事にツールを当てはめて、効率化した」程度のものではありますが、自分が組み合わせたツールを使って仕事が楽になると、満足感が非常に高いです。使い勝手が悪ければ、自分で修正することもできます。
それで人の仕事が楽になったり、売上がたったりすると、さらに満足度が高くなります。
レベルが高いDXに光が当たりがちですが、低レベルのデジタル化だって仕事を楽にしてくれるのであれば、胸を張って自慢していいんじゃないかな…と思います。
ボトムアップのDXがコンテンツ制作の現場を効率化する
15年近くコンテンツの仕事に携わっていると、いろいろな規模の出版社さんと関わらせていただく機会がありますが、特に中小の出版社さんで「コンテンツを作る」以外のところに対してあまり関心がないんだろうな…ということに直面することがあります。コンテンツが読まれること、が仕事の価値の中心ですから、これは仕方ありません。
でも一方で、コンテンツやプロダクト、イベントを制作し、リリースするまでには、オペレーションが必ず出てきます。そして、クリエイターがクリエイティブな業務に集中するために、オペレーションの負荷はできるだけ軽くしたいものです。
そのためにデジタルのツールは最強の武器になります。
そこで、冒頭のNHK解説委員の三輪誠さんの記事です。現場の人がちょっとしたツールを作り続けることで、ボトムアップ式のDXが進むのではないかと思います。
(対義語はトップダウンのDXです。これは会社でえいやーと何か導入したりする場合を指します。でもこれを進めるときも現場のことを知っている人が絡んでないと大概失敗しますよね…。)
そのうちそういう編集のための環境を統合したツールをAdobe様あたりが作るような気もしなくはありませんが、そんな日が来るのはまだ先のことでしょう。しかし日々編集業務は続きますし、原稿は書き上げなければなりません。
ということで、せっかく積み上げてきたノウハウが消失してしまうのももったいないので、今後このブログでは、これまで私が作ってきた仕組みや考え方のメモも残していきたいと思っています。
もし可能であればほかの方が作った仕組みなども紹介していきたいので、あなたの編集部で使っているよい仕組みがありましたら、 @keikoka まで教えてください。あと勝手にtwitterで #editechとやるのもよいと思います。(edtechとかぶりますかね~)
そういうことに興味がある方とお友達になりたいと思っておりますので、お気軽にお声がけください。